これから5年で超小型衛星は化けるか

豪雪の岐阜に帰省したばっかりに家から出ることもなく、正月はだらっだら過ごしていた。研究のほうはともかく、就職活動がスロースタートになりそうなので気をつけなければ。

そういえばこんな記事が出ていた。
2010年代の初夢 - 中須賀教授が語る「超小型衛星」の未来

国内で学校発の超小型衛星は2003年のXI-IV,Cute-Iを皮切りに現在まで11機打ち上げられている。小型衛星に取り組もうという大学も増加の一途をたどっており、一種のブームを迎えている状態。なぜ今小型衛星なのか。

これまで「大型衛星にいっぱい機能を詰め込んで、がちがちの安全寄りに設計してちょっとずつ打ち上げる」のがコストパフォーマンスの最適解であるとずっと思われていた。ところがムーアの法則に従って民生デバイスがどんどん高集積化し、他方で軌道上での動作実績を重視して宇宙用部品がなかなか進歩しないでいるうちに、こういう旧来の宇宙開発はじつは局所最適に過ぎず、「失敗を覚悟で圧倒的に小さい衛星を圧倒的に安く作り、圧倒的な数量を打ち上げる」という選択肢もあるのではないかと思われ始めた。もちろんミッションによっては大型じゃないとどうしようも無いものもあるけれど、案外小型でもどうにかなるようになってきている。手前味噌であれだけど、うちで開発している30kg級衛星「Nano-JASMINE」は1989年の2トン級衛星「Hipparcos」がやっていたのと同等の天文観測を行う能力がある*1。そして小型衛星には何より、新しい宇宙利用分野を開拓する可能性という大型にない武器がある。1機百億円の世界が1機百万円の世界にシフトしたとき、何が起きるか?

  • 新しい産業分野を生む可能性がある
  • 世界でも日本がかなりの実力を持っている

という2点において、「うまくやれば」超小型衛星の分野は化ける。この2点が当てはまることなんて山ほどあるかもしれないけど、航空宇宙分野に関しては物凄く貴重な希望の光。ただ、2003年以降の国内での動きは、学生を教育する目的でのCubeSatプロジェクトが雨後のタケノコのようにわしゃわしゃと生えたものの、まだ「じゃあどうやってこいつらを使うのよ」と頭を悩ませている段階にしかいない。短期の大型補正予算が(民主党に3分の2ほど削られてしまったけど)小型衛星の世界に入り、小型衛星ベンチャーが最初の商業衛星を打ち上げ、大学での衛星開発が学生の教育から商業利用可能な超小型衛星のロールモデルと移っていく今後5年間が、日本の超小型衛星にとって決定的に重要となることはまちがいない。
日本が足踏みしている6年の間に猛追している海外の大学勢、堅調に中型ー小型衛星ビジネスの足場を固めまくっているイギリスと韓国、そういう情勢のなかで自分がどう動けばどういう貢献をできるのか。
どちらかといえば、先陣から切り込んでいく側の人間より、考えて考えてからアウトプットを出す人間になりたい。もし小型衛星をやるのであれば、大型衛星の世界に踏み込んで、ふたつの世界それぞれの有り様を良く咀嚼してから自信をもって足を踏み出したい。まだ輪郭はとてもぼんやりしているけれど、そのような感じのことを考えながら過ごしている。さあ、どうしていこうかね。

*1:ちなみに両方とも位置天文観測という星の位置と運動方向をカタログ化する衛星なんだけれど、これは観測の不確定成分によって年々誤差が増えてしまうため、同精度でも繰り返し観測することには大きな意義がある。星の定点観測をやるイメージ。