宇宙用太陽電池を衛星に貼り付ける
2か月ぶりに日記.誰向けなのか分からないマニアックな話を展開する.
宇宙用太陽電池とは
人工衛星に使う太陽電池は何よりも面積あたりの発電量(=効率)が命.よく使われるのがガリウム砒素,GaAsを使った太陽電池で,よくあるシリコン系の倍以上,30%ほどの変換効率を持っている.設計段階でふつう太陽電池を何かしら選定するが,効率の面で圧倒的なので自然とこいつが選ばれる.
でも高い,すごく高い
その代わり高い.特に衛星用にQualifyされたようなものだと,1Wあたりで数万〜10数万になる*1.
しかも割れる,超割れる
しかも死ぬほど割れやすい.研究室の中では「端をつまんで持つと自重で割れる」と言い伝えられるほど扱いにくい.
どう貼るのか
GaAs電池の出す電圧はだいたい2.6Vくらいなので,普通はまず電池をいくつかの直列にまとめ,欲しい電圧にしてからそれを衛星構造や太陽電池パドルに貼っていく.順番としては
(1)太陽電池どうしを半田付け/溶接等でくっつけて
(2)それを宇宙用の接着剤で構造に貼る
感じになる.文字に起こせば簡単.
じゃあ本当にスペックどおりの性能が出るのか
大手衛星メーカーが作る人工衛星だと,予算は潤沢にあるし接着に関するノウハウもある.割れたら捨てればいい.ところが,大学の研究室レベルで作られるような人工衛星だと,少ない予算でギリギリの枚数を買ったはいいが貼り付けどうすんのこれ,みたいな事態に往々にして陥る*2.
そして,これだけ脆いモノを衛星に接着するからには,以下のようなリスクの山と戦う必要がある.
- 接着中/接着後に人が触って割れる/表面が汚れる.
- 接着剤に気泡が残り,それが打ち上げ後に真空中で膨張して破裂.
- 宇宙での昼夜の激しい温度差で膨張・収縮を繰り返した電池の端子部分が疲労で壊れる.
- ロケット打ち上げと衛星の分離時に生じる振動・衝撃で割れるor衛星から離脱.
- 接着材が発電面側に回り込み,発電性能が低下.
- 表面に回った接着剤が宇宙で紫外線を浴びて着色,さらに発電を阻害.
- 電池どうしの結合に使用する半田や溶接によるストレスで破壊,または特性が劣化.
- 軌道上の放射線照射や高温環境によって発電量が低下.
- 保管中の湿気によってカバーガラスの透明度が低下,発電量が低下.
- 保管中の酸化で端子の抵抗が上昇,効率が劣化.
- 電池の初期不良によって半導体の部分破損(液晶のドット欠けのようなもの)が現れ,効率が劣化.
モノづくりとは恐ろしいもので,いくら机上でうまいこと電力を計算しても,こういうリスクを丁寧に抑え込んだり,リスクを織り込んだ設計を行わないと電力の収支が破綻したゴミを宇宙に放り出してしまう.